テリトリーバンド(Territory Band)

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定義

テリトリーバンド(Territory Band)は、1920~30年代のアメリカで特定の地域内を巡業するビッグバンド・スタイルの楽団を指す。(日本語での適切な訳語がなく、邦訳されたジャズ研究書においても、そのまま「テリトリーバンド」と表記されている)

主に地域のダンスホールやローカルクラブを拠点としていた結果、多くのテリトリーバンドは録音機会にも恵まれず全国的な名声は必ずしも得られなかった。一方で、その演奏水準は高く、多くは「マイナーリーグ」のバンドと見なされつつも、地方の若手ミュージシャンにとってメジャー・ビッグバンドへの登竜門とも言うべき存在であった。

主要な活動地域

テリトリーバンドの活動領域は厳密には一定でなく、概ね北東部/南東部/中西部/南西部/西海岸/北西部など大まかな地域単位で分けられた。特に中西部・南西部・南部で興隆し、中西部のMINK地域(ミネソタ、アイオワ、ネブラスカ、カンザス)やイリノイ州などで大規模なバンド巡業が行われていた他、南西部テキサス州は広大な地域に多数のダンスホールがあり、多くの地元バンドが活発に演奏機会を得ていたとされる。黒人ミュージシャンのバンドは法律上や実務上の人種隔離(ジム・クロウ)を回避しつつ、これらの地域で巡業を行い、地元コミュニティにダンス音楽を供給していた。

ジャズ史における位置付け

大都市の楽団と比較すると、地域限定の存在と見なされがちであるが、実際にはジャズの発展に不可欠な役割を果たしていたと言えよう。多くの有能な若手ミュージシャンがテリトリーバンドを修行の場と位置付け、ここから後のスウィング期のスターが多く誕生した。例えば、Count BasieJimmy RushingHot Lips PageBuster Smithは、オクラホマ州から登場したWalter Pageに率いられたBlue Devilsの出身である(短期間の在籍者にはLester Youngもいる)。また、Mary Lou WilliamsAndy Kirk and His Clouds of Joyで名を上げた。

このようにテリトリーバンドは、ジャズ演奏スタイルを醸成し、1930年代以降の全国的なスウィング・ムーブメントへの橋渡しする役割を担ったと言える。広範な地方都市や農村部にライブ演奏を届け、各地にジャズのファン層を広げ、特にテキサスやオクラホマなど南西部では多数のテリトリーバンドが地元で盛んに演奏し、地域音楽市場を活性化させることとなった。その意義は大きい。

代表的な楽団

代表的なテリトリーバンドとしては、カンザスシティを拠点としていたBennie Moten's Kansas City OrchestraGeorge E. Lee's Novelty Singing Orchestra、ダラス出身のAndy Kirkが率いたAndy Kirk and His Clouds of Joy、テキサス州で活躍したAlphonso TrentTroy FloydDon Albertなどの楽団、オクラホマ州から登場したWalter Pageに率いられたBlue Devils等が挙げられる。

活動の衰退とその背景

1930年代に入ると、まず大恐慌の影響で経済状況が急激に悪化し、不況が底を迎える1933年の時点で多くのバンドが資金難で行き詰まった。更に、放送・録音技術の発展によって大衆は家庭で音楽を聴く機会を増やし、これによって、従来の地方巡業型の楽団の需要が減退する。こうした中でテリトリーバンドは、自然消滅的に解散していったのである。